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【書評】石田春夫『「ふり」の自己分析―他者と根源自己』講談社現代新書

「ふり」という言葉から派生される意味合いを考える一冊。
現代社会での「ふり」に耐え切れなくなった人々、精神疾患の患者と「ふり」をリンクさせ、その共通項を探り出すものになっています。
精神疾患者には、常人の持つ「見られる自己」に羞恥を感じず、ありのままを「ふり(る)」舞う。また上記抜粋の、内面の涵瀁よりも外見の着飾りに終始する時代云々は信憑性が無いものの、一つの見識として刺激を受けました。

確かにこの数年で言えば、行動経済学の発展や広告宣伝論の進化(特にウェブ上)には瞠目に値します。いかに表面を、見栄えを良くするか。人を動かす(購買意欲を掻き立てる)のにはパフォーマンス(広告)が絶大な力を発揮し、内面(商品価値)は二の次三の次になっている感は拭えません。アピールの仕方(広告の仕方)によってはまさに馬子にも衣装でしょう。

本書終章の「ふり」の終幕では、死生観を問いかけています。「見られる自己」を、周りの期待に応えるべく生真面目に実践するが、それが不可能であることに絶望するうつ病等の精神疾患を憂い、甘えているという世間のイメージの払拭を望む著者。精神科医者の苦心に共感を覚えます。

死について、他人の死は見ることができても、自己の死は見ることができない。誰も体験したことが無いため、それらを説いた宗教は二流ないし三流と著者は唾棄します。問題は死そのものではなく、生と死を渾然一体として捉えるべきと言います。自己の死については、道元禅師の教えに金言が多く、殊精神疾患者に勧めています。生だけを、あるいは死だけをピックアップして考えるのでは駄目で、生の中の死、または死の中の生を見つめる姿勢。これは養老猛子氏の『バカの壁』にも似たような事が書いてあったような気がします。

文章は読みやすく、なかなか面白いです。僕の評価はA-です。

最後に、この本の出版当時にはなかっただろう、昨今話題となっている尊厳死について、著者の主張を抜粋して終わります。死のあり方について、万人が一致した『望ましい死』を導くことはできませんが、達観した死生観を持つ人には共感するものがあると思います。

このごろ人間の死のありようがしきりに問題になる。自然がうしなわれ、環境がしだいに人工的なものに変化してくると、人間の生死のありようもそのリズムもかわってくる。しずかに自然に死をむかえることが次第に困難になりつつある。死のまぎわになってさえ、鼻にもチューブがさしこまれ、薬だ注射だ点滴だ酸素吸入だ人工蘇生器だと騒がしい。死が人工的に先のばしされる。死ぬにもかなりの体力がいるような気がする。なかなか「花のもとにて春死なん」というようなわけにはゆかなくなったのは、現代人間の不幸というほかはないだろう。
(「ふり」の終幕)

現代科学の技術を駆使して延命に賭けるか、死の間際を悟り流れに身を任せるか。その選択肢が増えた事は、僕は単純に喜ばしい事だと思います。



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