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【書評】渡辺正雄『文化としての近代科学―歴史的・学際的視点から』講談社学術文庫

本書では古代から近現代に至るまでの科学の歴史が、当時の社会・文化的な状況をふまえて冷静に述べられています。内容は少し専門的にもなるのですが、その中でおもしろい3つのエピソードについてふれます。私はまだ南半球へは行ったことがないのですが、太陽や月の動きがどのようになるのかは、理科の授業を通して説明してきました。それは何か変なのです。私たちの常識とは違うのです。東から出て西に沈むのは同じですが、北の空を通るため、左から右ではなく、右から左に移動するのです。前から変だと思っていたのですが、これだけオーストラリアなどへ行く人が多いなか、誰かがそのことについてふれているのを見聞きしたことが一度もありませんでした。しかし本書の著者はそのことに言及しています。おそらく海外旅行に行った人々はのんびり空なんてながめていないのでしょうね。みなさんは三日月のときなどにうっすらと月の陰の部分が光って見えるのを見たことがありますか。これを地球照というのだそうです。読んで字のごとく地球によって照らされているのだそうです。もちろん地球は自分自身光ってはいません。太陽からの光を反射し、その反射した光がまた月に反射して地球に届くというわけ。弱い光ですが、うっすらと見えることがあります。今から400年くらい前ガリレオ・ガリレイはそのことにちゃんと気付いていたそうです。彼は二次光と呼んでいたそうですが。良寛和尚は夏に蚊帳をつって休むのだけど、それは自分が蚊に刺されないためではなく、眠っている間にうっかり蚊をたたきつぶさないためにそうしていたのだそうです。その上、蚊のために、片足蚊帳の外に出していたというからすごいではありませんか。この仏教の生きとし生けるものすべてを大切に思うという教えは、現在のこの世の中にこそ必要なのではないでしょうか。実は本書には科学の歴史が時代を追って書かれているのですが、それを読みながら、科学や技術について、いかに自分の目で見て自分で考えることが大切かが教えられているように思います。その当時の状況をよく知った上で見ていかないと、とんでもない勘違いをすることにもなりかねません。日本に進化論が伝わってきたとき、日本人はそれをすぐに受け入れたと言います。キリスト教の教えに反するという理由でその理論を受け入れられなかった西欧諸国とは大きな違いです。それでは、当時の日本人は冷静に科学を見る目を持っていたと言えるのでしょうか。どうやらそうではなさそうです。ほとんど生物の専門的知識がないところに、そんな話が入ってきて、しかも当時の社会状況にぴったり(富国強兵を唱えていた日本と、自然淘汰(強いものが生き残る)を理論的に説き明かした進化論)だったために、何の問題もなくすっと受け入れたのが本当のようです。著者は「おわりに」で現代社会のかかえている環境問題についてふれています。本当はこのことをもっとも伝えたかったのかも知れません。この数ページを読むだけでも十分値打ちがありそうです。私は学生時代、著者の講義を聴講することが可能であったにもかかわらず、気付かないうちに退官されてしまい、今も非常に残念な思いをしています。



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