【書評】大前研一 『お金の流れが変わった!―新興国が動かす世界経済の新ルール』 PHP新書710
投資先を探して世界をさまよい歩く莫大な「ホームレス・マネー」。その正体とその獲得を目指した大前流日本経済活性化とは?著者の豊富な世界経済・情勢についての知識と鋭い分析が存分に発揮された一冊です。
陰りを見せたかつての経済大国アメリカ、そして急成長を遂げた中国。大前研一は両国の経済の裏に、住宅バブルの崩壊という大きな問題を見る(第1章)。
そして、世界経済に大きな影響を与える「ホームレス・マネー」のヨーロッパ、アジアでの動きが分析される(第2章)。「ホームレス・マネー」とは、OECD(経済協力開発機構)加盟国の余剰資金、原油価格の高騰によって中東産油国に集まった多額のドル、中国マネーからなり、マネーゲームに興じるファンドマネジャーに託されたこれらの莫大な資金は、ときには一国の経済を破綻させることもある。
例えば、タイの通貨バーツが投資家によって売り浴びせられ下落したことを発端に起った1997年のアジア通貨危機は、マレーシア、インドネシア、韓国、そしてロシアへと飛び火していった。大前は、このアジア通貨危機と2009年ドバイ・ショック、2010年ギリシア危機の流れを重ねあわせ、その負の連鎖の先に、多額の国債を抱える日本の未来を憂えている(第3章)。
このように、移り気な「ホームレス・マネー」の存在は、非常に厄介である一方、その流れを呼び込めば莫大な経済発展をもたらす存在でもある。大前は、成長の限界を迎えつつある先進国が、その国内間での投資によって潤う可能性に見切りを付け、「VITAMIN(ヴェトナム、インドネシア、タイとトルコ、アルゼンチンと南アフリカ、メキシコ、イランとイラク、ナイジェリア)」といった新興国との経済交流、技術交流に、それに伴うリスク以上の大きな可能性を見る。
その上で、鉄道事業の「ワンセット」輸出、原子炉建設に関する高い技術の提供、法人需要への対応といった新興国市場への参入と「ホームレス・マネー」呼び込みを狙った斬新な改革が提案される。また日本国内での経済活性化策としてが、所得税、法人税の引き下げ、相続免除、減価償却期間の短縮を行う一方、海外資本の積極的な受け入れ、海外旅行客の呼びこみ強化が提案される(第4章)。
民主党政権樹立後、バラマキによる経済政策も期待した成果を挙げず、混迷する日本経済。本書では、視点を外へと向け、積極的に新興国やホームレス・マネーを巻き込んで、日本のさらなる発展を目指すプランが示されており、日本経済の今後の見通しを考える上で、必読の書とも言えるのではないだろうか。
最後に、本書中で紹介されていたTEDという動画サイトをご紹介したい(http://www.ted.com/)、このサイトでは世界の著名な講師による講義を無料で視聴することが出来、非常に勉強になる。若干ビジネス寄りのものが多いが、一風変わった新技術の紹介など内容は多岐に渡る。*大前研一『お金の流れが変わった!―新興国が動かす世界経済の新ルール』(PHP新書710)は、レビュープラス様より献本して頂きました。いつもありがとうございます。
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