アダム・ペネンバーグ著、中山宥訳 『バイラル・ループ―あっという間の急成長にはワケがある―』 講談社
バイラル・ループとは、インターネット上で情報がウイルス(バイラス、Virus)のように爆発的に伝播していく事象を意味する言葉であり、最近ではtwitterのユーザー数増加及び、twitter上でのツイートがRT(リツイート)を介して、伝播していく現象が記憶に新しい。
本書の著者は、1988年、的確な洞察力と取材力で、米国の政治雑誌「ニュー・リパブリック」のライター、スティーブン・グラスの記事捏造を暴いたアダム・L・ペネンバーグという人物である。本書で、彼は「バイラル・ループ」という現象を、ブラウザ「ネットスケープ」、ウェブメール「ホットメール」、電子マネー「ペイパル」、SNS「フェイスブック」、フォトサービス「フリッカー」などを例に、その急成長の鍵を握る重要な要素として明らかにしている。
その全体像を知っていただく為に、まずはその目次を見ていただきたい。
目次
まえがき 佐々木俊尚(ITジャーナリスト)
プロローグ 小さなアイディアが「大きな富」に化ける瞬間
ウイルス伝播が始まった アクセス殺到
「金のなる木」へ 口コミの効果序章 大統領のバイラル作戦
バイラル・ループの爆発力 SNSを中核に
選挙戦のバイラル戦略 バイラルの3つのタイプ第1章 元祖はタッパーウェアだった
ホームパーティーで売る 「買いたい」空気が伝染する
ホームパーティー「だけで」売る 正反対のふたりが好タッグ
FNR(友人・知人・親戚)のパワー第2章 ウェブというバイラル培養器
マーク・アンドリーセンという男 53 公開1ヵ月で100万ユーザー 56
ネットワーク効果とは? 58 モザイクを抹殺しよう 62
ソーダのストロー 65 ネットスケープの大成功 68
ブラウザ戦争が勃発 71第3章 バイラル大平原の開拓者たち
バイラル係数 ニングの誕生
ネットワークの支流を増殖させる ロングテール
バイラル・ビジネス成功の条件 ネットはバイラルの大平原
なぜ、つながりたいのか 速度への執着
表示画面の革新 マイクロプロセッサの革新
出会い系サイト 加害者、それとも被害者?
モバイルで広がるビジネス第4章 メッセージの起爆力
投資会社との攻防 ウェブメールのアイディア
「ホットメールはどう?」 P.S.アイ・ラブ・ユー
バイラル・メッセージの効果 信頼性と速度の確保
マイクロソフトの接近 買収額のせめぎ合い第5章 決めるのは消費者だ
デジタル映画なら誰でも作れる 低予算、しかも効率的
ネットの口コミで映画を売り込む ブームから安定期へ
ネットの犠牲者、音楽業界 配給会社は要らない?
デジタル映画の壁 ニュースのスピード
新聞は終わった ハッピー・エンドはまだ先第6章 バイラル動画の広告効果
動画が起こしたバイラル津波 世界を駆け抜けるジョーク
ウケる動画の共通点は? やってはいけないこと第7章 バイラル成長の罠
規模拡大の苦しみ もっと急いで、大きく! 大きく!
追いつけなければ破滅 ツイッターの幸運
イーベイはどう危機を乗り越えたか第8章 ペイパルの戦い
暗号化でビジネスを! 電子マネーのアイディア
ペイパルの誕生 紹介してくれたら10ドル
寄らばイーベイの陰 合併でトラブル噴出
クレジットカード詐欺 詐欺との戦い
イーベイの逆襲 戦を望む者には、戦が訪れる第9章 ブログ時代のバイラル・ビジネス
ブログと一緒に成長したフリッカー 友達を連れてきたら無料!
友達の輪を取り込むマイスペース 「ユーザー任せ」が成功
招待が招待を呼ぶ ユーチューブの不動の地位第10章 「臨界量」をどう超えるか
バイラル係数の調節 自動更新のアドレスブック
ビーボの誕生 臨界量を超える条件
プロフィール欄を自由に ウェブの社会問題化第11章 SNS、成功の法則
フェイスブックのスタート 大学から大学へ
「国」ごとに違う成長曲線 グーグルとの激突
消えていったSNS 特許という武器
SNS用のウィジェット プラットフォームからの自由
マイスペースに寄生して成長 利益はまだ先第12章 広告の新たなスタイル
グーグルの広告モデル 消費者との果てしない戦い
個人情報の問題 プライバシーはない
深刻な問題ではない 時間にもとづく広告
ソーシャル・グラフの収益化 ユーザーは広告のパートナーエピローグ 地球もバイラル、人類もバイラル
著者は、オバマ大統領を勝利に導いた要因として、オバマの支持者達が、口づてに新たな支持者を獲得し、その結果、多くの人々による少額の個人献金がその選挙資金の多くを締めた事例を冒頭に置きつつ、ITにおけるバイラルマーケティングの元祖ともいえる保存容器「タッパーウェア」を例に挙げる。当初、タッパーウェアの販売は、百貨店での店頭販売がメインであったが、タッパーウェアの利便性、使い方を上手に伝えることが出来なかったことから、その売上は思わしくなかった。
ところが、ホームパーティを開いて、家族・友人・知人に直接、タッパーウェアの利便性、使い方を教えながら、販売を行う方式にシフトすることで、主婦を中心とした販売網を確立し、爆発的なヒットを飛ばすことに成功する。
この話を聞くと、「結局バイラル・ループとは、ネズミ講のアメリカ版ではないか」と思う読者もいるかもしれない。しかし、両者には決定的な違いがある。「ネズミ講」が新規顧客を獲得することによるインセンティブによって、現会員の勧誘力を引き出しているのに対し、「バイラル・ループ」を支えているのはあくまでも「サービスの質」という要素だからだ。その意味ではよいサービスを提供し続けられなければ「バイラル・ループ」を起こすことは出来ない。
本書では、このような「バイラル・ループ」を味方につけ急成長した企業として先に挙げたITにおける事例が分析されている。
人が人を呼ぶ「バイラル・ループ」を理解する為に、著者は「バイラル係数」という概念を導入する。バイラル係数とは、一人のユーザが一人のユーザを獲得する場合は、バイラル係数1.0、二人ならば2.0というように、ユーザの増加率を表わし、バイラル・ループの加速度を表す指標として用いられる概念である。
このバイラル係数を高く保つことで、ユーザの爆発的な増加が可能になる。本書の魅力の一つは、このバイラル・ループを引き起こす為に、IT創業者達がとった独創的なアイデア・ひらめきの現場、そしてライバルとの熾烈な駆け引きが生き生きと描かれている点だろう。例えば、バイラル・ループが軌道に乗れば、新たな問題として、莫大なアクセス数、ユーザ数の増加に対応したシステム拡張、改良に追われ、自社のサービスよりも優れたライバル達の登場にも対応しなければならない(第7章)。その意味で、本書で紹介されるサービスの多くが、急成長の途中にありながら、より大手の企業に高値で売却されることを目標としたのもうなずける。
最後に本書では、「バイラル・ループ」に伴なう問題として、セキュリティの問題(第8章)、googleなどの検索エンジン中心の情報の流れに対する、オルタナティブな手段としてのバイラル・ループの可能性、どうやって利益を上げるのか?という問題(第12章)を取り上げており、「バイラル・ループ」という現象を多角的な視野のもとに概観する上でも頼りになる。「エピローグ」において、地球上の生態系、人類の進歩も実は「バイラル・ループ」に他ならなかったという、遠大な解釈を披露している部分も非常に興味深い。
本書に興味をも持たれた方は、公式ホームページ(http://viralloop.jp/)にて、pdf版無料版が2010/9/14~10/4まで期間限定でダウロードできるということなので、是非読んでみて下さい。
*本書はレビュープラス様より、出版前原稿の形で献本して頂きました。いつもありがとうございます。
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