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【書評】伊藤清『確率論と私』講談社ブルーバックス

 本書は、確率微分方程式を開発した伊藤清理学博士によるエッセイ集である。収録されているエッセイが記述された時期は1978年~2006年にわたる28年間に及びます。

 エッセイで取上げられている話題は数学だけに留まらず科学全般に渡り、さらには著者の教育論や哲学・思想的なものにまで及びます。数学・科学の高等教育(高校~大学院)に携わる方々が読めば参考になる記述も散見されると思います。

 博士の数学観をウンチクするのは恐縮ですが、個人的に感じた著者の数学観の一旦を紹介しますと、数学には「科学的側面」と「芸術的側面」があり、両者は互いに必要で不可分、片方だけの視点に拘泥すると数学の学問的発展は滞るということになると思います。
 
 ここでいう「科学的側面」とは、いわゆる工学的に利用される側面としての数学、すなわち実学からの側面になります。一方、「芸術的側面」とは、例え理論構築する切っ掛けが実学だったとしてもひとたび理論体系が完成すると、現実から遊離して脳内でのみ存在する仮想空間で理論を展開する側面が数学にはあります。この現実から遊離した世界での抽象論、形式論等が「芸術的側面」となります。そして両者が相互必要かつ不可分というのは、実学から新理論となりうる数学の素材を求める視点・抽象論形式論の発展から実学への還元が起こりうるからです。

 代表的な実例を引用すれば、物理学は「科学的側面」としての数学を代表するものでありうるし、2000年来の歴史をもつ幾何学の「無限に広がる平面」などという概念は現実を遊離して脳内で設定しうる概念の代表例ではないでしょうか。尚、個人的な想像ですが、「芸術的」と表現されるのはその仮想空間でスッキリとした理論体系の完成度に芸術性を見出すからに他ならないからだと考えます。

 最後に、ネット等で著者の事を検索すると、しばしば「金融工学」の父 等と紹介される文面に出くわしますが、本書で著者が「金融工学」に伊藤理論(確率微分方程式)が利用されている事実を知った時の感想が述べられています。

 「私が想像もしなかった「金融の世界」において「伊藤理論が使われることが常識化した」という報せをうけたときには、喜びより。むしろ大きな不安に捉えられました。」(本書p135より)

 この不安はどうやら、「経済」の中の「金融」という局所で”経済戦争”を戦うために利用されている(特に若手数学者が、数学界から離れ経済方面で活躍する事実)事実を鑑み、もっと大所高所からの数学を思惟する著者の立場からの懸念であるように感じます。

 本書巻末には確率微分方程式の誕生に関する経緯を数学的に記述した部分も納められています。

 確率微分方程式を本格的に学びたい、入門の手がかりとしたい方には方向違いの内容ではありますが、生みの親である著者自身のエッセイ集であり、著者の数学観や教育・哲学・思想的なものに触れてみたい方にはお勧めできる一冊です。



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【書評】岡本久 中村周『関数解析』岩波書店

数理科学や応用数学において、関数解析がどのように役に立っているのかを解説。ノルム空間、Banach空間などの基礎から丁寧に説明し、さらに流体力学や数値解析学などの応用例を豊富に用いて微分方程式の解析に不可欠な材料や手法を紹介する。物理現象の数学的理解の重要性を示した、ユーザーのための関数解析入門書である。



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【書評】S.ラング『続 解析入門 (原書第2版)』岩波書店

解析入門の続き。読みやすい。腰を据えて独学する人にはオススメですが、短時間でマスターしたい人はもっと薄い本があるはず。



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【書評】 S.ラング『解析入門 原書第3版』岩波書店

あちこちに,「そうくるか~」という導き方があって,よかった.
確かに初学者でも読み進められるかもしれないが,理系の初学者(多少なりとも解けた感を自分で持てる人)でないと,
問題すべてに回答がついていないこのテキストはしんどいだろう.



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【書評】アミール・D.アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』早川書房

無限について、というよりもカントールを軸にして語られる数学者についてのお話。

ガリレオのアプローチは、リーマンのアプローチは・・とか。
専門家が書いていない気がする。アプローチと人生に焦点が当たっている分掘り下げてはいないがわかりやすい。
カントールのアルフの概念の説明が専門外向けでわかりやすかった。
有理数とは無理数の間に浮かぶものであり、量としては大きくことなること。
とくに、1次元と2次元の無限に差がないということを示すための、(an,bn)数列に対してどの座標に対しても0.anbnという数を作ることができ、この論法がm次元に対しても適用可能であるために上記の話が通る。という話はあまりに嘘くさいくせに否定できない点で、カントールの言葉である「我見るも、我信じず」という感想に大いに同意しよう。

まあおもしろかった。



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【書評】アポストロス・ドキアディス『ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」』早川書房

主人公が、「ゴールドバッハの予想」に人生をささげた数学者のペトロス伯父の人生を描くストーリー

難問に挑む数学者が、苦闘し続け、困難にぶち当たり、一人になり、チェスをはじめて少し取り戻したものの、難問を解く際に発見し温めていた理論を疑心暗鬼から発表のタイミングを誤り、ゲーデルの不完全性定理の発表で解けないもんだないのでは?、チューリングにより解けない問題があるかどうかを事前に確認することが不可能という発表と立て続けに、奈落の底に突き落とされ、一線を退く。

主人公によって、再び、問題に挑戦するも、不遇の死を遂げる。

フェイルマーの最終定理を解いたワイルズやポアンカレ予想を説いたペレルマンなど、ごく少数の超天才数学者であり成功者の裏に、その栄誉に浴することができなかった多数の不遇な数学者がいるということのある一面を見た思いになる。



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【書評】アレックス・ベロス『素晴らしき数学世界』早川書房

"本書を0章からはじめることにしたのは、そこで数学以前の問題が扱われていることを強調したかったからだ。0章に数が生まれるまでの経緯が書かれている。事実、1章の冒頭で数はすでに存在していて、すぐに本題にとりかかれるようになっている。" 世に数学の理論やその魅力を説く本は数あれど、”数”以前からはじめるものは少ない。いわれてみれば自分たちは"数"をどう認識しているのか、できているのか。例えば、”数”がどのように並んでいるのかと問われれば、多くの人が、定規の目盛りのように等間隔で並んでいる”線形尺”を想像するかも知れない。しかし、言語学者のフィールドワークによれば、人間に生得的なのは、"数"が大きくなるほどその間隔の狭まっていく"対数尺"であるという。そう、歳を重ねるほどに1年の短く感じられていくあれである。他にも、母語による数覚の差や、人間以外の動物の数覚など、0章と1章だけでも十二分に読まされる。もちろん、他本編も、ただ数学の理論を解説するのではなく、そこに携わる人たち(むしろ、憑かれた人たち)の具体的生活を通して語られるのが、とても新鮮で味わい深い。



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【書評】E・T・ベル『数学をつくった人びと 3』早川書房

2003年以来の再読だったが、いっきに読み終わってしまった。数学者たちの伝記としても読めるし、数多くの数学上の話題をざっと概観することも可能。この本が1930年に発表されていたということもおどろきで、高校生の時に読んでいたらまた変わった人生を選ばせたかも知れない。訳も大変よい。



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【書評】E.T.ベル『数学をつくった人びと〈1〉』早川書房

2004年に一度読んだが再読。こういう本が多分好きなんだと思うけれど、大変面白い。数学的な内容の説明はあたりまえだが数学者の人となりがうかがえる。第1巻は、アルキメデス、デカルト、パスカル、ニュートンと有名どころが並んでいる。ニュートンはやはりすごい人だったのだと思う。大学の教養で苦しめられたフーリエ変換のフーリエにも再会した。



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【書評】フィリップ・J.デイヴィス『ケンブリッジの哲学する猫』早川書房

ハヤカワ文庫NFにラインナップされているが、
そのまんまノンフィクションではなく、
数学者である著者の想いを登場人物に仮託して綴ったフィクション。
イングランド東部で生まれた「五にャん」きょうだいの中の一匹(♀)が
ケンブリッジ大学のペンブルク・コレッジ(college=学寮)へ赴き、
トマス・グレイと名付けられ、科学史・古代数学史が専門のファイスト博士と昵懇に。
彼女も様々な思索に耽っているらしい……が、
その何気ない動作を深読みし、
研究の進展に寄与してくれたと大喜びするファイスト博士がカワイイ。



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